生命科学先端研究センター学術セミナー(第51回〜第60回)

第60回
日 時 平成22年8月5日(木)午後6時から
場 所 共同利用研究棟6階会議室
演 題 「血幹細胞の放射線感受性−個体差やiPS細胞の初期分化との関連性について−」
講 師 柏倉幾郎 先生(弘前大学)
内 容
 造血幹細胞は、全ての血球を作り出すという「多分化能」と、自らを複製する「自己複製能」という多能性を有する。造血幹細胞の放射線感受性が高い事は歴史的にも十分知られているが、その感受性の個体差はじめ、放射線応答メカニズムに関する詳細は依然不明な点が多い。
 本セミナーでは、現在我々が取り組んでいる造血幹細胞の放射線感受の個体差に関与する制御因子探索に加え、放射線のiPS細胞の初期分化に及ぼす影響についても最近の成果を紹介する。

第59回
日 時 平成22年7月16日(金)午後2時から
場 所 共同利用研究棟6階会議室
演 題 「生体材料を用いたMSイメージング法の試み」
講 師 佐藤孝明 氏((株)島津製作所基盤研究所・ライフサイエンス研究所所長)
内 容
 Mass spectrometry Imaging(MSI)解析という組織切片から生体分子を直接的にイオン化させ検出する新たなマススペクトル解析法は1997年にCaprioliらによって報告されてから様々な進展が見られている。組織切片は分子の位置情報を有しているという特徴があり、これを検出することにより、バイオマーカー探索や新薬の薬物動態研究が行われている。現在、MSI解析は凍結組織切片を用いるのが主流であるが、我々は、レトロスペクティブに研究をするために、病理診断でも汎用性のあるパラフィン組織切片に着目し、適切な前処理をすることで、バイオマーカー探索や標的分子の変異部位の同定にケミカルプリンター (CHIP-1000)/MALDI-TOF MS法が応用可能と考えた。マウス脳組織を固定・パラフィン包埋後、導電性のあるインジウムチンオキサイドコーティング仕様スライドグラス上に切片を作製し、適切な脱パラフィン処理後、CHIP-1000を用いて目的領域にナノスケールレベルの酵素・マトリックスの分注を行いMALDI-TOF MSで測定した。その結果、凍結切片と同等レベルのピークを検出・同定することが可能であった。長期保存した子宮体癌組織切片においても正常部位と癌部位でのマスピークプロファイルの差異を検出できた。
 我々は"顕微質量分析装置"の開発を推進しており、レーザーの有効照射径10ミクロン弱でマウス小脳のMSIを行うことに成功している。これらの前処理法、並びに顕微質量分析装置は、動植物を含む様々な組織のターゲット分子のイメージングに応用可能であるとともに、従来法による病理学や薬物動態の解明に加えて強力なツールとなることが期待される。

第58回
日 時 平成22年6月25日(金)午後5時から
場 所 附属病院2階臨床講義室(1)
演 題 「放射線障害の特徴と発がん」
講 師 鈴木文男 先生(広島大学原爆放射線医科学研究所特任教授)
内 容
 放射線の特徴は、わずかなエネルギーで重篤な障害を及ぼすことである。特に、DNAはその標的とされ、これまでDNA損傷修復機構を中心とした研究が活発に行われてきた。しかしながら、最近の研究により、細胞には自らDNA損傷を感知する機構があり、細胞周期進行制御や老化形質発現などを介して異常細胞の蓄積を防止していることが明らかとなっている。また、がん研究の分野では、多くのヒト腫瘍病変部において活性型のDNA損傷応答因子が検出され、細胞がん化の初期変化としてDNA損傷応答が注目されている。
 本講演では、放射線生物研究の現状と課題について説明するとともに、放射線発がん機構に関する新たな考え方を紹介する。

第57回
日 時 平成22年4月22日(木)午後6時から
場 所 医薬研究棟3階第1ゼミナール室
演 題 「DNA損傷修復を標的としたがん治療」
講 師 宮川 清 先生(東京大学疾患生命工学センター教授)
内 容
 放射線治療のみならずほとんどの抗がん剤治療は、DNA損傷を引きおこすことによって、がんに対する治療効果を発揮するとともに、副作用をも発現します。近年の生命科学の発展により、このような放射線とがん化学療法によるDNA損傷に応答する情報伝達経路と修復機構が次々と解き明かされるようになりました。
 そこで、今回はDNA損傷の中でも最も重篤な損傷であるDNA二重鎖切断に対する応答経路を中心として、その分子機構に基づくがんの個別化治療の戦略を紹介したいと思います。

第56回
日 時 平成22年4月14日(水)午後6時から
場 所 医薬研究棟3階第1ゼミナール室
演 題 「生体の放射線応答機構の鍵を握る一酸化窒素(NO)−バイスタンダー応答/適応応答の機構解明からイノベーション創出−」
講 師 松本英樹 先生(福井大学高エネルギー医学研究センター)
内 容
 低線量放射線に対するリスクは、しきい値なしの直線仮説を用いて高線量放射線曝露によって得られたデータからの外挿によって評価されている。しかしながら、この25年間に、生物は、低線量放射線に対して高線量放射線に対する応答とは異なった応答をするという知見が蓄積され、このモデルの妥当性には議論の余地がある。つまり、放射線生物学における古典的な「標的説」では説明できない「非標的現象」に関する知見が蓄積されてきている。演者らは、非標的現象の中でも「バイスタンダー応答」および「適応応答」に関心を持ち、それらのしくみを明らかにしてきた。演者らの研究成果の一端を紹介する。

第55回
日 時 平成22年3月31日(水)午後5時から
場 所 共同利用研究棟6階会議室
演 題 「Function of Diverse Transcriptional Coactivators in Animal Cells」
講 師 Robert G. Roeder 先生(米国ロックフェラー大学教授)
内 容
 Transcriptional regulation by gene- and cell-specific DNA-binding factors underlies key events in development and in cell growth, differentiation and transformation. However, their effects on the general transcription machinery on specific target genes depend upon complex arrays of cofactors (coactivators and corepressors) that add additional layers of regulation. These cofactors include both chromatin remodeling/ histone modifying factors (including various histone acetyltransferases and methyl-transferases) and factors (such as the 30-subunit Mediator complex and the TAF subunits of TFIID) that facilitate more direct communication between promoter-bound regulatory factors and the general transcription machinery. The function of selected cofactors will be discussed in relation to gene activation by tumor suppressor p53, nuclear hormone receptors and/or E-proteins.

第54回
日 時 平成22年2月5日(金)午後5時から
場 所 共同利用研究棟6階会議室
演 題 「質量顕微鏡による生体組織の分子イメージング」
講 師 瀬藤光利 先生(浜松医科大学教授)
内 容
 我々はこれまで、新しい分子イメージングの手法で医学生理学上の問題を解決してきた(Setou et al. Science 2000, Setou et al. Nature 2002, Yao et al. Cell 2007, Konishi and Setou Nature Neuroscience 2009)。今後はさらにメタボローム、プロテオームを包括した生命システム全体の時間的空間的変化すなわち多次元オミックス解剖を知ることが重要であると考える。そこで、私たちは島津製作所等と共同で、質量分析を用いた顕微鏡法、質量顕微鏡法を開発している(Sugiura et al. Anal. Chem. 2006, Shimma et al. Anal. Chem. 2008, Taira et al. Anal. Chem. 2008, Harada et al. Anal. Chem. 2009, Morita et al. Cancer Science 2009)。
 本講演では、我々の質量顕微鏡法の原理と応用による生体システム可視化を発表議論する。

第53回
日 時 平成21年12月16日(水)午後5時から
場 所 医薬研究棟3階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「疾患モデル動物の原因遺伝子同定−LECラットを例として−」
講 師 安居院高志 先生(北海道大学大学院獣医学研究科教授)
内 容
 遺伝性疾患モデル動物の原因遺伝子の同定はヒトの遺伝性疾患の原因解明、更には基礎医学的面からの遺伝子機能の研究に有用である。近年のゲノム情報の充実により、原因遺伝子の同定は機能面から辿っていくよりも、染色体上の位置情報をたよりに同定する方法(ポジショナルクローニング)で行う方が遥かに効率的である。
 本セミナーでは、北海道大学で樹立されたLECラットを例にとり、この方法及びその結果判明した興味深い知見について紹介する。

第52回
日 時 平成21年12月11日(金)午後5時から
場 所 共同利用研究棟6階会議室
演 題 「温熱による細胞死の基礎的研究」
講 師 高橋昭久 先生(奈良県立医科大学医学部)
内 容  ハイパーサーミアによるがん治療はがん組織を41-43℃程度に温めて、がん細胞だけを選択的に排除することを目的とした治療方法である。通常、化学療法や放射線治療と併用されるが、温熱単独でも高い殺細胞効果が知られている。臨床研究と並行して、1970年以来、がんに対する温熱の作用機構の基礎的研究が進み、がんの治療法としてハイパーサーミア治療法は科学的にも優れた特徴が一層明らかになってきた。しかしながら、温熱に対する細胞の生体応答の分子機構についてはまだまだ多くの不明な点が残されている。その一つとして、温熱による細胞死の原因については、再考の余地があると考えている。従来、温熱による細胞死の原因はタンパク質の熱変性と考えられてきた。最近、我々は新たな手法を用いて、DNA二本鎖切断(DSB)こそが細胞死の原因であってもよいのではないかという実験結果を発見した。
 本講演では、温熱による細胞死の原因について、従来のタンパク質変性を主因とする論拠を概説し、次にDSBが細胞死の主因とする論拠を紹介する。さらに、温熱によるDSB生成機構、温熱に対する適応応答機構について考察する。

第51回
日 時 平成21年11月25日(水)午後5時から
場 所 医薬研究棟3階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「高知大学で開発した認証型Web申請・審査システム−動物実験計画書および遺伝子組換え実験計画書」
講 師 古谷正人 先生(前高知大学総合研究センター)
演 題 「Web申請・審査システム導入時に考慮すべき点」
講 師 衛藤 徹 先生(社団法人高知予防医学ネットワーク)
内 容
 生命科学分野の研究に必要不可欠な動物実験並びに遺伝子組換え実験は、国や機関長等の承認下で実施することが法律等で義務付けられています。その一方で、承認を得るまでに時間がかかる傾向にあり、研究者からは迅速な処理が、委員会委員・事務担当者からは審査に係る負担の軽減が求められています。
 本講演では、高知大学総合研究センターが開発した、これら一連の手続きをより効率的に行う「認証型電子申請・審査システム」について、システムの内容、メリット、運用状況、審査状況、他機関への導入時の留意点等についてお話しするとともに、テストサーバを用いた実演も行います。