生命科学先端研究センター学術セミナー(第31回〜第40回)

第40回
日 時 平成20年6月20日(金)午後5時30分から
場 所 医薬学研究棟3階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「樹状突起スパインのアクチン細胞骨格の神経活動依存?的制御」
講 師 白尾智明 先生(群馬大学大学院医学系研究科教授)
内 容
 樹状突起スパインは脳内の主要な興奮性シナプス後部であり、その形態及び構成タンパク質の可塑的変化は学習記憶などの高次機能に重要である。スパイン内の構造体としては、シナプス後部肥厚(PSD)とアクチン細胞骨格があり、スパインの形態変化は主にアクチン細胞骨格により制御されている。アクチンを脱重合させると、多くのスパイン構成タンパク質の局在が不安定化し、スパイン形態もフィロポディア様に変化する。従って、アクチン細胞骨格がスパイン形態の形成、安定化に必須であることがわかる。我々は発達過程におけるアクチン細胞骨格の変化を研究し、スパインの前駆体であるフィロポディア内で、アクチン結合タンパク質ドレブリン依存的にアクチン線維が集積することにより、PSD関連タンパク質のスパイン内への集積が促進され、スパインが形成されることを明らかにした。本セミナーでは、このドレブリン結合アクチン線維の集積に関する神経活動依存的制御機構について紹介する。

第39回
日 時 平成20年5月9日(金)午後5時から
場 所 医薬学研究棟4階放射線基礎医学ゼミナール室
テーマ 「マイクロバブルと超音波」
演 題 「From surfactant bubbles to protein microspheres - Their implications and applications in ultrasound operations」
講 師 Judy Lee 先生(メルボルン大学・オーストラリア)
演 題 「超音波キャビテーション場における気泡分布観察」
講 師 飯田康夫 先生(独立行政法人産業総合研究所)
内 容  極小気泡はマイクロバブルあるいはナノバブルと称され、その性質および挙動が通常の気泡とは異なることが知られています。現在、極小気泡も殻の有無、主成分の材料、および形態を異にする多くの種類が開発され、その利用は超音波造影剤等医療のみならず多くの産業にも応用され、今後もその利用の拡大が期待されています。

第38回
日 時 平成20年3月14日(金)午後6時から
場 所 医薬学研究棟3階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「PET画像診断による最適治療法の確立」
講 師 宮内 勉 先生(医療法人財団とやま医療健康センターとやまPET画像診断センター長)
内 容
 PET(Positron Emission Tomography;陽電子放射断層撮影)は、サイクロトロンにて製造された短半減期の陽電子核種を用い、様々な生理活性をもつ分子量の小さな薬剤を合成し、生体内での挙動を断層画像により可視化する。
 本セミナーでは、広くPET診療に用いられているトレーサーFDGの製造、PET装置の原理と進歩、病変へのFDG集積機序など概説する。
 さらに、悪性腫瘍での臨床応用から得られた知見に基づく診断能(腫瘍病変の良悪性鑑別、病期診断、原発不明癌の原発巣同定)や、特殊な検査法、治療効果判定、治療効果予測、予後予測、放射線治療に密接につながる腫瘍体積の正確な推定など最適治療法確立に有効であったデータなどにつき自験例を交え概説する。

第37回
日 時 平成20年2月22日(金)午後5時から
場 所 共同利用研究棟6階会議室
演 題 「プロテオーム解析を支えるソフトイオン化質量分析」
講 師 高山光男 先生(横浜市立大学大学院国際総合科学研究科教授)
内 容
 現代ソフトイオン化法であるマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)とエレクトロスプレーイオン化(ESI)を使い、翻訳後修飾解析や各種病体のマーカータンパク質の探索などへの応用が盛んである。実際の解析では、タンパク質ではなく断片ペプチドのイオンシグナルを高感度で精度よく得ることが重要であり、これはプロテオーム解析の基幹技術である質量分析学に課せられた課題でもある。
 本セミナーでは、アミノ酸とペプチドのソフトイオン化に注目し、検出感度と直接関連するイオン収量を決定する因子について述べる。また、イオン収量を増大させるための工夫についても述べる。

第36回
日 時 平成20年1月31日(水)午後5時から
場 所 共同利用研究棟6階会議室
演 題 「小胞体ストレスのpseudokinase TRB3による制御」
講 師 林 秀敏 先生(名古屋市立大学大学院薬学研究科)
内 容
 小胞体で何らかの異常が発生すると細胞はそれを感知し、修復プロ グラムを開始させるというタンパク質の品質管理機能が備わっている。 修復不能となった場合、細胞はアポトーシスなどにより自分自身を消 滅させようとするが、その細胞死に関しては未だ不明な点が多く、特 に小胞体ストレスのマーカーでもあるCHOP/gadd153を介した細胞 死、あるいはその制御に関しては未解決のままである。我々はCHOP タンパクが同じC/EBP familyの他の分子に比べ不安定であること1)、 TRB3という新規kinase様タンパクがCHOP及びATF4などの転写因 子の誘導を介して小胞体ストレスに応じて産生され、これら転写因子 の活性を抑制し、negative feedback制御を担っていることを見出 した2)3)。一方、TRB3は小胞体ストレスに伴う細胞死を促進し2)、 小胞体ストレスだけではなく、酸化ストレスやアミノ酸枯渇等によっ てもTRB3は誘導されることから、様々なストレスにおける細胞死の general regulatorとして作用している可能性を考えている。また、 TRB3は細胞周期や分化、代謝などの制御にも関与しており、ストレ スの生理的・病理的機能についてもご紹介したい。
1)Hattori et al., Oncogene, 22, 1273 (2003)
2)Ohoka et al., EMBO J., 24, 1243 (2005)
3)Ohoka et al., J. Biol. Chem., 282, 35687 (2007)

第35回
日 時 平成19年11月22日(木)午後5時から
場 所 医薬研究棟4階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「マウス臍帯血移植モデルの確立と解析」
講 師 篠原信賢 先生(北里大学医学部教授)
内 容  造血幹細胞の移植は白血病などの悪性腫瘍、免疫不全、ある種の先天性代謝異常などの治療に有効である。造血幹細胞のソースとしては主に骨髄が用いられて来たが近年臍帯血が有望視されている。臍帯血はGVH反応を起こす成熟T細胞が非常に少ないこと、サイトメガロウィルスなどの感染が無いこと、ドナーのプールが非常に大きいこと、ドナーに苦痛や危険が全く無いことなど骨髄に比べて多くの利点を持つ。しかしながら、従来臍帯血移植の良い動物実験モデルが無かった為に、以外に解析が進んでいない。我々は数年前にマウスの臍帯血移植モデルを開発し、この実験システムを用いて臍帯血の造血幹細胞の機能的、生態的解析を進めて来た。まず、マウスの臍帯血も造血系を完全に再構築する能力を持つ事を確認し、さらにリンパ球の機能解析を行った。その結果、臍帯血で再構築された免疫系は細胞性免疫反応、抗体産生反応について骨髄細胞によって再構築されたものにそん色無いことが確認された。しかしながら臍帯血の中には典型的な骨髄造血幹細胞のフェノタイプ(lineage marker-, c-Kit+,Sca-1+, side population)を示すものが全く存在しないことを見い出した。臍帯血の造血幹細胞はどのような姿をしているのだろうか?骨髄の幹細胞と機能的な違いは無いのだろうか?現在これらの問題を追求している。

第34回
日 時 平成19年6月29日(金)午後5時30分から
場 所 附属病院2階臨床講義(1)
演 題 「がんの重粒子線治療」
講 師 鎌田 正 先生(放射線医学総合研究所重粒子医科学センター)
内 容  重粒子線には、他の放射線にはない優れた特長があり、線量をがんに集中させて効率よく死滅させ、周囲の正常組織のダメージを少なくすることができる。
 放射線医学総合研究所では、炭素の原子核を光速の約80%まで加速する重粒子線によるがん治療の研究・開発が1983年に開始され、1994年からその臨床応用が行われている。これまで2800例余りの症例を数えているが、従来の治療では十分な効果が得られないがんに対して有効であり、より短期間で安全に治療できることが明らかになってきた。
 本講演では、放射線医学総合研究所におけるがんの重粒子線治療への取り組みと今後の展開についてご紹介いただきます。

第33回
日 時 平成19年5月2日(水)午後5時30分から
場 所 医薬研究棟4階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「重力ストレス時の動脈血圧調節:前庭系の役割とその可塑性」
講 師 森田啓之 先生(岐阜大学大学院医学系研究科教授)
内 容
 重力は循環系に対する最も重要なストレスのひとつである。重力の方向あるいは大きさが変化すると静水圧差が変化し、静脈還流量と心拍出量が変化して、動脈血圧が変化する。これらの変化に対して種々の調節系が働き、循環系の変量を一定に保つ。重力や頭部の位置変化等の直線加速度や角加速度を感知する前庭系は、重力変化時の動脈血圧調節に重要な役割を果たしていることが分かってきた(前庭−動脈血圧反射)。また、前庭系は可塑性の強い器官であることが知られており、異なる重力環境に曝されると前庭−動脈血圧反射の調節力が変化する可能性がある。動脈血圧調節における前庭系の役割とその可塑性について、動物実験、被験者実験のデータを紹介する。

第32回
日 時 平成19年3月27日(火)午後4時から
場 所 医薬研究棟4階ゼミナール室(1)(2)
テーマ 「新たなDDS技術と分子イメージング」

演 題 「超音波造影ガス封入リポソーム(バブルリポソーム)の開発と医療分野への応用」
講 師 鈴木 亮 先生(帝京大学薬学部)
内 容  これまで我々は、リポソームに超音波診断用ガスを封入したリポソーム(バブルリポソーム)を開発した。このリポソームに超音波を照射すると、リポソーム中の気泡が崩壊し、その時生じるジェット流により細胞内に様々な物質をデリバリーすることができる。そこで本発表では、バブルリポソームの医療分野への応用について、バブルリポソームと超音波の併用による遺伝子デリバリーを中心に紹介する。

演 題 「リポソーム技術を基盤とするDDSと免疫療法の構築」
講 師 丸山一雄 先生(帝京大学薬学部教授 )
内 容  リポソームは有用なドラッグデリバリーシステム(DDS)として期待されて久しいが、本邦でもようやくAmBisome(アムホテリシンB)とDoxil(ドキソルビシン)の2つのリポソーム製剤が認可された。我々は、組織・細胞へのターゲティング機能を付加した次世代型リポソームの開発研究を進めており、その過程で開発したトランスフェリン修飾リポソームは、現在米国でPhaseにある。また、リポソームによる樹状細胞への抗原送達技術を開発し、癌ワクチン療法の開発に取り組んでいる。そこでセミナーでは、リポソームによる癌治療と癌免疫の構築について紹介する。

第31回
日 時 平成19年2月7日(水)午後5時から
場 所 医薬研究棟4階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「遺伝子再生医療とヒト化モデルマウス作製を目指したヒト人工染色体の構築」
講 師 押村光雄 先生(鳥取大学大学院医学系研究科教授)
内 容
 理想的な遺伝子治療・機能再生医療を達成するうえで、ベクターに求められる必須条件は、?効率よい遺伝子導入、組織特異的発現に、?遺伝子発現のタイミング、?特定量の発現をもたらすことである。更に、?組織特異的・機能的アイソフォームが正しく形成される必要がある。現在、これらの条件を満たし、かつ遺伝子本来の発現のある長大な遺伝子構造全体を運ぶことのできるベクターの開発が求められている。細胞が遺伝子を運ぶ構造・機能上の単位が染色体であり、細胞分裂の際に正確に遺伝子群を娘細胞に伝達する機構を備えており、いわば天然のベクターである。染色体のもつ機能を損なわずにこれを自在に改変し、さらに目的の細胞に移すことができれば、遺伝子導入ベクターとして遺伝子機能の解明、遺伝子・再生医療、医薬品開発等に利用できる。最近我々は、ヒト21番染色体改変し、Cre/loxPシステムを利用して、目的の遺伝子をカセット方式で部位特異的に挿入できる新規の人工染色体ベクターを構築した。本セミナーではヒト化モデルマウス作製とその医学応用及び遺伝子・再生医療を目指した研究の背景と現状について紹介する。