生命科学先端研究センター学術セミナー(第21回〜第30回)

第30回
日 時 平成18年11月13日(月)午後5時から
場 所 医薬研究棟5階放射線基礎医学ゼミナール室
演 題 1:「温熱治療に伴う免疫活性の賦活メカニズム−熱でガン細胞を死滅させることは可能か−」
2:「DNAチップなどによる遺伝子発現情報の処理技術の開発と疾病の発症予測−テーラーメイド医療は可能か−」
講 師 小林 猛 先生(中部大学応用生物学部教授)
内 容
演題1
 酸化鉄微粒子をリポソームで包み、その表面にガン細胞を認識できるモノクローナル抗体を化学的に結合させる、あるいは陽電荷脂質をリポソームに添加する、ことによって、酸化鉄を腫瘍部位にだけ集積させることができます。交番磁界を照射すると、腫瘍部位だけの加温が可能となり、ガン細胞を死滅させることができます。さらに、加温に伴って大量に生成するヒートショックタンパク質が関与したキラーT細胞の賦活が認められました。この賦活メカニズムなどについて説明します。

演題2
 情報科学と生物科学は共に発展著しい分野ですaACその交差点であるバイオインフォマティクスは更に発展著しい分野です。DNAチップなどによる遺伝子発現情報が比較的容易に入手できるようになるaACバイオインフォマティクスの手法を使ってテーラーメイド医療は可能となるかもしれません。しかaAC遺伝子発現情報を市販のソフトだけで処理するaACもどかしく感じるようになります。コストに見合った精度の高い処理技術を開発しなけれaACテーラーメイド医療は掛け声だけに終わってしまいます。これまで悪戦苦闘してきた結果を紹介します。

第29回
日 時 平成18年11月10日(金)午後5時から
場 所 医薬研究棟4階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「グリア細胞や神経幹細胞から神経変性疾患を考える:新しい脳ダイナミクスの考え方」
講 師 成田 年 先生(星薬科大学助教授)
内 容
 神経変性疾患は、細胞死などにみられるような器質的な変性や欠落をその要因とすることがほとんどであるが、その初期誘導には神経の変性や壊死を惹起する神経以外の細胞応答が関与する可能性が考えられる。すなわち、神経由来の因子が神経の変性を直接惹起するばかりではなく、周辺細胞からのシグナル応答が神経変性の促進因子となりうることも十分に考慮に入れなければならない。また、器質的な変性を伴わない持続的な神経系の機能変化もまた、周辺細胞からの制御を受ける可能性が高い。このような作用を持ちうる周辺細胞として注目を浴びているのがグリア細胞である。最近我々は、薬物依存状態ならびにストレスや疼痛刺激を負荷させたげっ歯類の脳内において、アストロサイトやミクログリアが活性化される事実をつきとめた。さらに我々は、これらのシナプス可塑性を惹起しうる負荷が、脳内神経幹細胞からの神経新生やグリア新生のバランスを変え、その結果、グリア細胞の増殖自体を調節する可能性も見出している。こうした事実に加え、グリア細胞由来液性因子が神経幹細胞の分化を直接調節する機能を持ち合わせることも明らかとなった。こうした、神経-グリア-神経幹細胞間の相互作用を解明することは、神経変性やシナプス可塑性のメカニズムを理解するためにも大変重要なアプローチとなる。講演では、こうした細胞間相互作用とシナプス可塑性について最新の知見を交えてご紹介したい。

第28回
日 時 平成18年10月27日(金)午後5時から
場 所 医薬研究棟5階放射線基礎医学ゼミナール室
演 題 「生体機能保持細胞株の樹立と創薬科学研究への利用」
講 師 帯刀益夫 先生(東北大学加齢医学研究所教授)
内 容
 ヒトの身体はおよそ60兆個に及ぶ細胞の集合であり、分化した細胞の種類も数百を越える。最近、ヒト遺伝子情報の全体像が明らかになるとともに、個々の遺伝子の機能を細胞や個体のレベルで研究することが可能となった。しかし、個々の分化した組織細胞のレベルでの組織の機能特性や組織形態の構築の研究は、一般的に遅れている。遺伝子研究で行われているような要素還元主義に立てば、生体組織機能の研究も、これを構成している全ての細胞について、個々の細胞がもつ機能特性をまずはっきりさせて、その上で機能細胞の集合体としての組織を、そして個体を統合化して考える必要がある。そのためには、生体を構成する組織の全ての分化した細胞を細胞株クローンのライブラリーとして確保し、これを生体機能の理解に利用してゆくことが望ましい。
 我々は、温度感受性SV40T-抗原遺伝子導入トランスジェニックマウス、およびラットを作出し、多様な組織から生体の分化機能を保持した不死化細胞株を樹立する方法を確立した。本講演では、不死化遺伝子導入トランスジェニクマウス、ラットからの多様な分化機能保持細胞株の樹立と、その生体機能解析への利用の具体例について紹介する。これら分化機能保持細胞株を用いて培養系で組織機能の再構成を進めてゆけば、将来的には組織再生医学研究へと発展させられる。また、これら細胞株は、薬理学、毒性研究、動物実験代替法への利用、生体機能を反映した医薬品スクリーニング系の開発など、創薬科学の基盤的技術として発展するものと期待される。

第27回
日 時 平成18年10月24日(火)午後5時から
場 所 共同利用研究棟5階会議室
演 題 「遺伝子改変マウスが空を飛び交う時代がやってくる!」
講 師 中潟直己 先生(熊本大学生命資源研究・支援センター教授)
内 容
 近年、遺伝子の機能解析およびそれに関連した研究開発が、国家プロジェクトとして世界中で盛んに行われている。その中で重要な役割を果たしているのが遺伝子改変マウスであり、今後、その数は加速的な勢いで増えることが予想され、最近、これらマウスの維持管理と輸送が、世界中の実験動物施設においてきわめて深刻な問題になっている。今後のライフサイエンスの進展にとって、バイオリソースとしての遺伝子改変マウスは、まさに知的基盤の根幹を成すものと言っても過言でなく、その作製、収集、保存、供給の管理システムが、ますます重要視されている。本講演では、世界のマウス胚・精子のバンクシステム、特にマウス精子の凍結保存およびこれら凍結細胞の輸送・供給体制について述べる。

第26回
日 時 平成18年10月23日(月)午後4時から
場 所 医薬研究棟4階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「6π-電子系電子環状反応の活用による生物活性天然物合成」
講 師 日比野 俐 先生(福山大学薬学部教授)
内 容
 次に示す近年の研究成果について紹介します。
1.抗酸化作用および神経細胞保護作用を有する多官能性カルバゾールアルカロイドの合成研究:
インドールの2位あるいは3位にアレン中間体を組み込んだ 6π-電子系電子環状反応の開発と展開
2.マイクロ波(MW)照射下でのaza 6π-電子系電子環状反応の活用に関する研究:
1986年からこのMWの合成化学への利用が始まったと言われております。この反応は、反応速度の加速、収率の向上、溶媒中あるいは無溶媒中でも進行、反応系内を均一に加熱することから再現性が高いという点が特徴として挙げられています。Diels-Alder反応やClaisen転位などでの活用は知られていましたが、電子環状反応では全く報告が無かったことから、MW照射下におけるaza 6π-電子系電子環状の活用に関する展開を試みました。

第25回
日 時 平成18年10月6日(金)午後4時から
場 所 医薬研究棟4階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「酵素のダイナミックな作用機序に基づく新しい創薬研究」
講 師 西村紳一郎 先生(北海道大学大学院先端生命科学研究院教授)
内 容
 インフルエンザウイルスによって広く知られることとなったシアリダーゼには基質であるシアロ糖鎖の加水分解反応に直接関与する求核性アミノ酸残基が少なくとも2つ存在すると言われている。我々は最近、非可逆的阻害剤をプローブとして用いることによりそのうちの一方のエッセンシャルな求核性基の同定法を確立した。この方法を用いてコレラ毒素シアリダーゼについて求核性基を探索した結果、驚いたことにそのアミノ酸残基は活性サイトから約20Aも離れたループ内に存在していることが明らかになった。この実験事実は加水分解反応に必須の求核性基が含まれるこのフレキシブルループが大きなコンホメーション変化を伴って基質結合部位にアクセスしていることを意味している。このようなコンホメーション変化は酵素の動的(ダイナミック)な作用発現機構にとって極めて重要なプロセスであり、加水分解酵素に留まらず多くの転移酵素等にも共通する普遍的な現象として理解できるかもしれない。
 このたびは高次構造解析が進展している哺乳類のガラクトース転移酵素において観察された基質結合に伴うダイナミックなループ構造変化を特異的に阻害する分子の設計コンセプトについて紹介した後、高次構造が不明のヒトフコース転移酵素やシアル酸転移酵素などの阻害剤探索への応用研究の成果についてお話したい。

第24回
日 時 平成18年5月10日(水)午後3時から
場 所 医薬研究棟5階放射線基礎医学ゼミナール室
司 会 鈴木信雄 先生(金沢大学)

演 題 「メラトニンの多彩な機能と新たな展開」
講 師 服部淳彦 先生(東京医科歯科大学教養部)
内 容
 原核生物からヒトにいたるほとんど全ての生物において、生体内の生理現象は日周リズムを示す。そのリズムの調節物質として知られている松果体ホルモン・メラトニンには、他に季節情報の伝達物質としての作用やフリーラジカルのスカベンジャーとしての機能、さらに最近では骨代謝調節に関わる新しい機能が明らかにされた。本セミナーでは、これらの多岐にわたる機能を概説するとともに、なぜメラトニンは多彩な機能を持っているのかを進化と絡ませながら考察し、最後に医療への今後の展望にも触れる予定である。

演 題 「歯と骨とウロコの話:魚鱗の再生過程から見えてくるもの」
講 師 田畑 純 先生(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
内 容
 歯は骨の一種のようなとらえ方をされることがあるが、実際には、エナメル質、象牙質、セメント質という硬組織の複合体であり、骨とは明らかに異なる。実際に歯を骨と比較すると、歯の方が硬いこと、含有タンパク質が違うこと、リモデリングが無いこと、分泌細胞が違うことなど、骨との違いは顕著である。一方、硬組織でありながら、毛や汗腺とよく似た発生過程を示し、上皮の付属器官としての一面も持つ。しかし、できあがった歯を毛や汗腺と比較すると、構造がより精密であること、数が一定であることなど、形に変化があること、など上皮の付属器官としては発生が厳密に制御されたものであることがわかる。こうしたことから、歯の発生や組織構築の研究は大変おもしろく、解明のためには、さまざまなアプローチが必要であると考えている。
 そこで、最初にこれまで行ってきた「歯胚の器官培養系」や「エナメル芽細胞の初代細胞培養系」を用いた演者の研究について簡単に紹介し、次に現在取り組んでいる「魚鱗を用いた実験系」を紹介したい。魚鱗はハイドロキシアパタイトを主成分とする硬組織であり、同時に上皮付属器官としての特徴も備えていることから、歯の実験モデルとして好適であると思われる。また、強い再生能を持つこと、構造がシンプルであることなどから、歯にはない利点があり、再生実験や培養実験に向いた材料と位置づけられる。そこで、再生過程における組織学的な変化、細胞たちの振る舞いなどを紹介しながら、歯・骨・ウロコの共通点や相違点、それぞれの持つ面白さなどをお伝えしたいと考えている。

第23回
日 時 平成18年4月20日(木)午後5時30分から
場 所 医薬研究棟3階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「ナショナルバイオリソースプロジェクト
『ニホンザル』の現状とサルを用いた先端的解剖学的研究」
講 師 高田昌彦 先生((財)東京都医学研究機構東京都神経科学総合研究所)
内 容  研究用ニホンザルの繁殖と安定供給を目指して2002年度にスタートしたナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」もいよいよ5年目を迎え、母群の確保、繁殖・飼育体制の充実、供給の実施と順調に進展している。
 本セミナーでは、その現状について簡単に説明するとともに、「サルを用いた先端的解剖学的研究」と題して、狂犬病ウイルスや様々なウイルスベクター(アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス)を用いたサルの脳研究に関する最新の知見を紹介したい。

第22回
日 時 平成18年2月20日(月)午後5時から
場 所 医薬研究棟5階放射線基礎医学ゼミナール室
演 題 「消化管腫瘍発生によるWntとPGE2」
講 師 大島正伸 先生(金沢大学がん研究所教授)
内 容
 プロスタグランジン合成酵素であるC0X-2は、胃癌や大腸癌などでも発現しており、COX-2活性を阻害すると腫瘍発生は抑制される。一方で、APCやβ-catenin遺伝子の変異が、上皮細胞内でのWntシグナルを亢進させて胃腸管に腫瘍を発生させる。遺伝子改変モデルマウスの作出と交配実験などにより、この二つの経路(WntとCOX-2)がどのように腫瘍発生に関与しているかが明らかになって来た。

第21回
日 時 平成18年1月27日(金)午後4時から
場 所 医薬研究棟3階ゼミナール室(1)(2)
演 題 「触媒的環化アルケニル反応の開発と天然物合成への展開」
講 師 豊田真弘 先生(大阪府立大学大学院理学系研究科教授)
内 容
 1979年伊藤・三枝らは、不飽和エノラートが1当量の酢酸パラジウムの存在下にβ、γ-不飽和環状ケトンを与える、いわゆる環化アルケニル化反応を開発した。本反応は、緩和な反応条件下に高収率で不飽和環状ケトンを与えることから、これまで様々な機能を持つ多環状分子の合成に利用されてきた。しかしながら、比較的高価な酢酸パラジウムを化学量論量必要となる点と、生成するタール状の0価のパラジウムが特に大量合成の際に収率の低下を引き起こすことから、再現性のある触媒的環化アルケニル化反応の開発が強く望まれていた。
 講演では、著者らが触媒的環化アルケニル化反応を開発するまでの経緯と、天然物合成への展開について紹介する。