Microarray Analysis (マイクロアレイ解析)
 ポストゲノムシーケンス時代の到来
2003年ヒトゲノムプロジェクトが完了し、現在、ヒトゲノム中に存在する遺伝子は2-3万個ほどであると云われています。今後のポストゲノムシーケンス時代では、これまでのように個々の遺伝子の機能を解析するだけでなく、全ての遺伝子の機能とそれらのネットワークを解析する必要性が高まってきました。DNAマイクロアレイは、一度に、数百から数万個の遺伝子発現を解析できることから、ポストゲノムシーケンス時代の網羅的遺伝子発現解析の非常に有用な技術として注目され、数多くの研究に応用されています。
 DNAマイクロアレイとは
DNAマイクロアレイは、スライドガラスやシリコンの基盤上にDNAをスタンプしたもの総称で、DNAやRNAの発現量を解析することができます。スライドガラス上に遺伝子をスポットするタイプは、スタンフォードタイプと呼ばれ、遺伝子とスポッターさえあれば容易にマイクロアレイを作製することができます。また、市販のアレイも入手可能です。測定装置は、様々なものが各社から販売されています。これらを自由に組み合わせて、研究を行なうことができます。他方、シリコン基盤上にオリゴヌクレオチドを合成し、作製されるマイクロアレイは、主にAffymetrix社のGene Chip(R)として販売されています。特殊な技術が必要で、容易にアレイを作製することはできません。アレイを購入し、専用の読み取り機器で解析します。どちらのタイプを選ぶか、これは非常に難しい問題です。各々の特徴を考えて、研究者自身が行なう研究にあわせて選択することになります。
 ごく普通の実験手法になったマイクロアレイ技術
以前、これらのマイクロアレイを用いた技術の精度が懐疑的であり、かつ、実験に膨大な費用が必要であったので、マイクロアレイ実験は限られた施設での特殊技術と考えられていました。しかしながら、ここ数年、実験技術が進歩し、精度が向上したことや市販のマイクロアレイやGeneChip(R)が以前より安価になり入手しやすくなりました。最近では、世界中の研究機関で、ごく普通の研究手法として用いられるようになってきました。研究にマイクロアレイがどれくらい応用されているかを、NCBIのPubMedのデータベースを用いて調べてみました。キーワードに"microarray"と、発表年、例えば"2006"と入力しました。非常に興味深いことに2000年頃から急激に論文数が増加していることが判りました。

 遺伝子実験施設で使用できる機器
遺伝子実験施設では、平成14年1月にマイクロアレイスキャナー(ScanArray Lite, Packard BioChip Technologies)、同年8月にGeneChip(R)解析システム(Affymetrix)が設置されました。これらの機器により、スタンフォードタイプとGeneChip(R)タイプのマイクロアレイの両方の解析が可能となっています。
 遺伝子実験施設で使用できるソフトウエア
マイクロアレイ実験の解析のためのソフトウエアとして、平成17年6月にクラスター解析ソフトウエアGeneSpring (Agilent Technologies)、同年11月にパスウエイ解析ソフトウエアIngenuity Pathways Analysis tools (Ingenuity Systems)を導入しました。これらのソフトウエアを用いることで、マイクロアレイで得られた結果を効率よく解析できるようになりました。
 マイクロアレイデータの登録と公開のお願い
上記のごとく、マイクロアレイ実験が普遍化し、論文における本実験手法の利用が急激に増加しました。一方、論文の紙面のスペースは限られており、本手法から得られる情報を紙面に全て掲載するのは非常に困難です。これを解決するために、雑誌のHP上にsupplement dataとしてその情報を記載されるケースを多く見かけます。情報量がさらに多い場合は、遺伝子発現データベースに発現解析データを登録するという方法があります。また、論文によっては、これが義務化されている場合もあります。皆さんよく御存知のNCBIには、研究論文、遺伝子等データベースに加えて、遺伝子発現データベースがあり(GEO: Gene Expression Omnibus; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/index.cgi)、世界中からデータが登録され、その登録数は日々増加しています。我々は、本分野設置のGeneChip?システムと発現解析ソフトウエアを用いて、種々の網羅的遺伝子発現解析を行ないました。その全ての詳細なデータはGEOに登録しました (→Microarray data)。
遺伝子実験施設では、マイクロアレイ実験に関する講習会や情報の提供をタイムリーに行って行きたいと考えています。これらの利用を今後とも宜しくお願い致します。また、本施設の機器やソフトウエアを用いて研究を行なわれた場合には、マイクロアレイデータの登録をお願い致します。現在、登録数は7実験と少ないですが、今後、その数を増やしていきたいと考えております。御協力宜しくお願い致します。