神経に関する分子細胞生物学的研究
 共同研究機関:
 本学薬学部分子神経生物学(津田教授) http://www.pha.u-toyama.ac.jp/bioche1/index-j.html 
 本学薬学部応用薬理学(倉石教授) http://www.pha.u-toyama.ac.jp/phapha2/index-j.html

a) 神経幹細胞の増殖・分化を促進する薬物の探索と機構解析
 神経幹細胞とは,分裂・増殖をすることができ(自己複製能),神経細胞とグリア細胞という中枢神経系を構築する細胞へと分化する能力(多分化能)を持ち合わせた細胞です.海馬の神経幹細胞は,学習(learning)や豊かな環境下(Environmental Enrichment)で増殖頻度が増加し,ストレス負荷や加齢に伴い減少することが報告されています.それゆえ,神経幹細胞の増殖あるいは分化を促進する薬物は,記憶学習や老人性痴呆に有効な治療薬(脳機能改善薬)となる可能性があります.我々は,このような性質を持つ薬物の探索を行っています.また,神経幹細胞の増殖・分化制御メカニズムの解析も行っています.

Control

薬物A処置


b) アストロサイトにおける神経栄養因子発現調節メカニズムの解明
 
脳由来神経栄養因子 (BDNF)は,中枢神経系において最も多く存在する神経栄養因子ファミリーのひとつであり,ニューロンの生存・維持・分化など様々な機能に重要な役割を果たしています.BDNFは主に神経細胞に発現しますが,脳虚血などの病態時にはアストロサイトにもBDNFが発現します.しかしながら,アストロサイトにおけるBDNFの発現調節メカニズムは不明でありました.我々は,真核生物のエネルギーであるATPがアストロサイトおよび不死化アストロサイト細胞株(RCG-12細胞)において,BDNF mRNAの発現を誘導することを初めて見出しました.さらに,アストロサイトにおけるATPによるBDNF発現誘導には,P2Y受容体→細胞内Ca2+上昇→CaM kinase活性化→CREBリン酸化という経路が重要な役割を担っていることも明らかにしました.

関連論文:
1) Takasaki , I. et al.: Identification of genetic networks involved in the cell growth arrest and differentiation of a rat astrocyte cell line RCG-12. J Cell Biochem 102, 1472-1485 (2007) [abstract]
2) Takasaki , I. et al.: Extracellular adenosine 5'-triphosphate elicits the expression of brain-derived neurotrophic factor exon IV mRNA in rat astrocytes. Glia 56, 1369-1379 (2008) [abstract]

c) 痛みに関する研究
 坐骨神経痛や帯状疱疹後神経痛などの神経因性疼痛は,その痛みのメカニズムが未だ明らかでなく,有効な鎮痛薬がほとんど無いのが現状です.我々は,神経因性疼痛の発症メカニズムの解明と新しい鎮痛薬の開発を目指し,実験動物・培養細胞を用い,行動薬理学や分子生物学の様々な手法を駆使して研究を行っています.現在は,我々が世界に先駆けて開発・報告した帯状疱疹痛と帯状疱疹後神経痛のモデルマウスを用いて,これら痛みの動物モデルの中枢神経系における遺伝子発現をGeneChipシステムにより網羅的に解析し,疼痛発生メカニズムの解明を目指すとともに,鎮痛薬のターゲットとなる新しい分子を探索しています.

関連論文:
1) Takasaki , I. et al.: Allodynia and hyperalgesia induced by herpes simplex virus type-1 infection in mice. Pain 86, 95-101 (2000) [abstract]
2) Takasaki , I. et al.: Effects of analgesics on delayed postherpetic pain in mice. Anesthesiology 96, 1168-1174 (2002) [abstract]
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