実験実習機器センター長に就任して

医学部医学科免疫学講座教授 村口 篤


 平成10年8月1日付けで、前任の和漢薬研究所服部征雄教授のあとを引き継ぎ、実験実習機器センター長を拝命した。実験実習機器センターは「大学の顔」であり、このセンターの管理運営状況をみれば、その大学の教育研究のレベルが判断できるといわれる。そこで、これまでの当センターの設置経緯ならびに管理運営の現状を自分なりに分析し、これからの抱負を述べて利用者各位のご意見・ご批判を伺いたい。
 

設置経緯と目的
 当センターは昭和54年に「共同利用研究施設」として学内措置でスタートし、4年後の昭和59年に省令施設として認可された。従って、現在育ち盛りの満15歳である。当センターの設立目的は「学内共同利用に関わる実験実習機器を適切に管理し、共同利用機器の整備充実と効率的運用を図ることにより、医学・薬学等の学術研究および教育の推進に寄与する」こととされており、よって、当センターは、「学内の共同利用機器の整備充実・運用を委託された機関」と位置づけられる。
 

管理・運営組織
 現在本センターが擁する共同利用機器は60を超え、それらは部門別に管理されている。部門は現在10部門あり、各部門は部会により運営されている。部会は利用者である教員と管理担当者によって構成されており、センター長が委嘱する幹事を中心に運営に当たっている。部門の上部組織として、実験実習機器センター運営委員会が在り、部門を越えた重要事項について審議・決定を行っている。
 運営委員会は、医学部・薬学部・和漢薬研究所から選出された委員と、センター長およびセンター専任教官により組織されている。運営委員会で決定された運営方針に基づき、センター長の統括のもとに、専任教官と専任技術員とで、事務を含めたセンター全体の業務を処理している。
 専任職員は、専任教官の助教授1名のみであり、技術職員は学内配置により5名配属され、特殊装置の専門家として機器の保守管理・利用方法の教習・委託分析等を行っている。  

管理・運営経費
 本センターの経常経費としては、施設運営費と概算要求設備の「維持費」があり、これらの経費で、センターにある機器の保守・維持・管理を行うことになっている。しかし、その経費は十分でなく、不足分は受益研究室負担となる。分担方法は各部会で決定され、校費振替によって徴収されている。また、「維持費」の運用は部会に一任されており、センターの管理運営費はわずかな施設運営費のみとなっている。  
 

現状分析と将来の展望
 本センターが抱える最も重要な問題は、センターの管理運営のあり方であろう。本センターは「学内の共同利用機器の整備充実・運用を委託する機関」という位置付けで設立された。  しかしながら、設立当初からセンターは「部会」を重視し、「部会による独立採算性」を当然とする結果、本来あるべき姿から離れてしまったといえる。すなわち、部局の概算要求等で大型プロジェクトに付随する機器が大学に入ると、センターに設置されたそれらの機器は要求した部局・講座の所属物として扱われ、その管理・維持はその部局・講座が「部会の名の下」に維持管理を行うということが容認されてきた。これが高じると、実験実習機器センターはその機器の設置場所の振り分けを行うだけの機関になりかねない。
 この管理運営方法の問題は、故小泉徹教授がセンター長であられたときに、解決に向けた努力が開始され、前センター長服部教授により一部は解除された。それでも、現在なお部会の一部には古い意識が残っているように思われ、充分に解決されたとは言えない。問題は共同利用機器とは何かの認識にあるように思われる。概算要求等で大学に購入されるものは、当然、全学的共同利用を前提とするものであり、その共同利用を運営するために設置されたのが、この実習実験機器センターであるはずである。一部の機器を除き、共同利用の形で購入された機器が、部局や講座にのみ所属するものという考えは根本から間違っている。
 大学内に設置されたものは共同利用できるものは共同利用すべきであり、我々は、すべての希望する研究者がその機器を利用できるようにしなければならない。部局を越えて、大学のすべての研究者に(大学外の研究者にも希望があれば彼等にも)利用していただくべきものであることを再認識すべきであると私は考える。これがまた、機器センター設置の目的理念であり、大学の活性化と発展へとつながることを銘記すべきであろう。いずれにせよ、部会の独立採算性の見直しや、部会の運営方法(部会の再編成を含む)、特殊装置の維持費の運用方法について、早急に運営委員会で審議する必要があろう。
 さて、共同利用の基本的な考え方についてこだわり過ぎた感があるが、非常に大切な次の問題は、現在のセンターの職員組織の問題である。本センターの運営は、運営委員会で決定された運営方針に基づき、センター長(兼任教授)の統括のもとに、専任教官(助教授1名)と専任技術員(技術職員5名)とで、センター全体の業務(事務および特殊機器の保守管理・利用方法の教習・委託分析)を行うことになっている、と述べた。しかし、現実を見ると、センター長は自分の講座の運営に忙殺されてセンターにめったに寄らないし(センター長の部屋がないのも一因であろう)、専任教官は事務的業務に疲弊し全体を統括する余裕がない。さらに専任技術職員は特定の機器の維持管理に拘束されている、というところが現状であろう。これでは、センターとしての組織運営が麻痺しているといわざるを得ない。この問題をどのように解決すべきであろうか。
 私は、実習実験機器センターの運営を正常化するために以下のことを提言したい。早急にすべきこととして、まず、専任教官の下に事務補佐員を1名おくこと。このことにより、専任教官はセンターの管理・運営に正面から取り組むことが初めて可能になる。次に、専任技術職員は部門を越えて、専任教官とともにセンター全体の管理運営に協調できるようにすること。所詮、専任教官1人で全体の機器管理を行うことなど不可能である。センター長を含め、スタッフ全員が協力しあって、全学的視野からセンターのために働くことが正常化への一歩であろう。この可能性を実現化するために努力したい。長期的視野からの提言としては、センターの概算要求として、教授1名、助手数名を要求していくのは当然であろう。その実現化に向けて大学側に理解を求めて行く予定である。
 次に、技術職員の技術向上と待遇改善が急務である。留学経験のある研究者に共通する経験であろうが、私が留学していたアメリカの国立衛生研究所(俗称NIH)では研究室には数人のテクニシャンがいて、ELISAや細胞分離・細胞解析・蛋白の定性や精製などは依頼すれば、すべて気軽にやってくれた。やってくれない場合でも、真剣に相談に応じ、手助けをしてくれた。それが如何に研究の時間を節約し、研究効率をあげてくれたかは、日本に戻って自分で研究室をもったとき初めて痛感したものである。彼等には、技術とプライドがあり、またお互いが競争意識を持ち、平素から切嗟拓磨を実践していたように思う。そのため、技術講習会などには競って参加していた。また、技術の向上や実績(論文の共著なども評価される)が昇格や昇給にもつながり、それがまた励みにもなっていたように思われる。いわゆる教室系技術職員の待遇改善は、組織化問題とともに全国規模で検討されているところであるが、当センターでも、意欲的な技術職員に対する待遇改善を早急に行えるよう検討し、しかるべき働きかけを行うべきであると考える。
 21世紀に向けて、大学を含めた高等教育を取り巻く状況は大きく転換しようとしている。学術研究についても学際化・総合化が急速に進むことが予想され、地球規模での協調・共生を念頭に置く、より個性的な大学造りが求められている。そのような中で当センターの展望はどのようなものであろうか。国立大学実験実習機器センター長会議では、「次代の研究を担う大学院生への最先端技術の教育と研究活動の支援を行う機関」としてセンターを位置付け、教職員の整備を文部省に要求することにしている。この路線は当を得たものであり、本大学が文部省に要求している「大学院大学」の構想が実現化した場合、その一部局として当センターを独立させることが可能になるかも知れない。
 あるいは、前センター長がまとめられたセンターの自己点検評価に述べられているように、本学には、実習実験機器センター以外にも、動物実験センター・RI実験施設・遺伝子実験施設・情報処理センターの4つの共同利用施設があるが、これらの5施設の連絡協議会を設立し、もってこれらの施設を核にした「教育・研究センター」の設立を模索するのも1つの方向性であろう。
 一方、医学部大学院教務委員会では、大学院教育の在り方を見直しその改革について鋭意努力しているところであるが、現在の大学院の教育の在り方として、大学院入学の比較的早い時期に集中的な教育実習を行うことについて模索している。この教育実習に実験実習機器センターが主導的役割を果たしてはどうかという案もある。すなわち、本センター主導で大学院のいくつかの実習教育を行うことは実現可能であろうと考える。この具体化について運営委員会で検討を行いたい。
 本センターは、設備・機器の適性な管理と効率的運用を目的として、「利用案内」や「機器センターニュース」を発行し、活発な広報活動を展開してきている。さらに、インターネットを利用したホームページを開設し、利用者への最新情報の提供に努めている。大学の改革は、教職員の意識改革を源とし、大学側がこれらの源から出る泉のような静かな流れを、如何にすばやく感知し、それを創意工夫して、「大河」という大きな流れにするかで、大学の運命が決定される。その意味で、現在危急の課題となっている人員要求に関して、共同利用施設から出される概算要求を、長年、大学が無視してきた責任は大きいであろう。
 いづれにせよ、現在実習実験機器センターが抱える問題は山積みされている。学内の利用者を最優先としながら、問題解決に向け、微力ながら努力を行う決意でありますので、利用者の皆様の忌憚のないご意見をお聞かせ頂くよう切にお願いする次第で ある。
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